フランス語とポルトガル語の「曜日」から見る、宗教と歴史の物語

私たちが当たり前のように使っている「月曜日」「金曜日」といった曜日の名前。

実はその背景には、古代ローマの神々や、ユダヤ教・キリスト教の歴史が深く関わっています。

この記事では、

  • フランス語の曜日がどのようにローマ神話とつながっているのか
  • ポルトガル語の曜日がなぜ「segunda-feira, terça-feira…」という独特な形なのか
  • その背後にある宗教改革的な動き
    を、わかりやすく紹介していきます。

1. フランス語の曜日:ローマ神話の神々と天体の名残

フランス語の曜日名は、基本的に 古代ローマの「神々」+「天体」 に由来しています。

ラテン語の「〜の日(dies …)」がフランス語へと変化していったものです。

◆ 月〜金:神々と惑星のセット

フランス語日本語ラテン語原型意味・由来
lundi月曜dies Lunae月の女神ルーナの日
mardi火曜dies Martis戦争の神マルスの日
mercredi水曜dies Mercurii使者神メルクリウスの日
jeudi木曜dies Iovis最高神ユピテルの日
vendredi金曜dies Veneris愛と美の女神ヴィーナスの日
  • lundi:Luna(ルーナ)→ lundi
  • mardi:Mars(マルス)→ Martis → mardi
  • mercredi:Mercurius(メルクリウス)→ Mercurii → mercredi
  • jeudi:Jupiter(ユピテル)→ Iovis(属格)→ jeudi
  • vendredi:Venus(ヴィーナス)→ Veneris → vendredi

占星術では、

月・火星・水星・木星・金星といった天体が、それぞれ神々と結びつけられていました。

フランス語の曜日は、その体系をほぼそのまま現代まで残していると言えます。

◆ 土曜日:安息日 sabbat の影響を受けた samedi

土曜日の samedi は、やや複雑な語源を持っています。

  • ラテン語 dies Saturni(サトゥルヌスの日)
  • ラテン語 dies sabbati(安息日 sabbat の日)

この2つの要素が混ざり合い、

安息日(sabbat)+サトゥルヌス(土星) の影響を受けて、

現代フランス語の samedi になったと考えられています。

◆ 日曜日:太陽の日から「主の日」へ ― dimanche

日曜日は、他の曜日と少し性格が異なります。

  • 元々は dies Solis(太陽の日)
  • キリスト教化が進む中で、
    → dies Dominica(主の日:神・キリストの日)へ

この Dominica がフランス語で変化し、dimanche になりました。

つまりフランス語では

  • 月〜金はローマ神話の神々
  • 土曜は sabbat の影響を受けた混成形
  • 日曜は「主の日」というキリスト教的な名前

というように、異教とキリスト教の折衷のような形で曜日名が定着したのです。

2. ポルトガル語の曜日:聖マルティニオと「数字+feira」方式

一方、ポルトガル語の曜日はかなり独特です。

  • segunda-feira
  • terça-feira
  • quarta-feira
  • quinta-feira
  • sexta-feira

と、月〜金がすべて「数字+feira」 になっています。

(ブラジルでは日常会話で「segunda」「terça」のように feira を省略することも多いです。)

◆ キーパーソン:ブラガの聖マルティニオ(Martin of Braga)

ここで登場するのが、6世紀の司教 ブラガの聖マルティニオ(São Martinho de Braga) です。

  • 活動時期:6世紀(およそ 510〜580年ごろ)
  • 活動地域:イベリア半島北西部(現在のポルトガル北部〜スペイン・ガリシア)
  • 役割:スエビ王国をカトリックへ導いた司教・改革者

彼は著書『農民の迷信矯正(De correctione rusticorum)』などで、

ローマ風の異教的慣習や占星術を批判し、

キリスト教的な生活と文化への転換を強く促しました。

その流れの中で、

曜日名にローマ神話の神々の名前を使うことも好ましくない

とされるようになります。

◆ 「神の名を消す」ための発想:典礼で使われていた数え方

キリスト教の典礼(典礼暦)では、

特に聖週間の中で日を表す際に

  • feria secunda(第2の祝日)
  • feria tertia(第3の祝日)

のように、「第○の日」を数で呼ぶ習慣がありました。

この数え方を、日常の曜日名に一般化したのがポルトガル語のスタイルです。

◆ ポルトガル語の曜日の構造

  • domingo = 主の日(ラテン語 dies Dominica)
  • segunda-feira = 第2の日(feira)
  • terça-feira = 第3の日
  • quarta-feira = 第4の日
  • quinta-feira = 第5の日
  • sexta-feira = 第6の日
  • sábado = sabbat(ユダヤ教の安息日)由来の「土曜日」

ここでポイントなのは:

  • 日曜日(domingo)と土曜日(sábado)は他のロマンス諸語と共通の起源
  • しかし、月〜金はすべて「数字+feira」で、神々の名前が完全に排除されている

つまりポルトガル語だけが、ローマ神の色をほぼ完全に消し去った曜日体系を持っているのです。

3. フランス語とポルトガル語の曜日の対比

ここまでを、ざっくり比較表にしてみましょう。

日本語フランス語由来ポルトガル語由来
日曜dimanche主の日(Dominica)domingo主の日(Dominica)
月曜lundi月の女神ルーナsegunda-feira第2の日(数字+feira)
火曜mardi戦神マルスterça-feira第3の日
水曜mercrediメルクリウスquarta-feira第4の日
木曜jeudiユピテルquinta-feira第5の日
金曜vendrediヴィーナスsexta-feira第6の日
土曜samedisabbat+サトゥルヌスsábadosabbat(安息日)

フランス語:

  • 古代ローマの神々の名が色濃く残る
  • 日曜だけは「主の日」としてキリスト教的名称に変更

ポルトガル語:

  • 日曜・土曜は他のロマンス諸語と似た起源
  • 月〜金は、「神の名を避けたい」というキリスト教的改革の影響で
    → 数字で呼ぶ「第○の日(feira)」方式へ

特に、ブラガの聖マルティニオのような人物による

「異教的な要素を排除しよう」という宗教改革の姿勢が、

現代ポルトガル語の曜日にまで痕跡として残っているのがとても興味深いポイントです。

4. 曜日の裏に広がる、宗教と文化のレイヤー

フランス語とポルトガル語の曜日の違いを見ていくと、

単に「言葉が違う」以上に、

  • ローマ帝国とローマ神話
  • ユダヤ教の安息日(sabbat)
  • キリスト教の「主の日」・復活信仰
  • 異教排除をめざした中世の宗教改革

といった、歴史・宗教・文化のレイヤーが重なっていることが見えてきます。

  • フランス語の曜日は、ローマ神話とキリスト教が共存しているカラフルなカレンダー
  • ポルトガル語の曜日は、キリスト教化を徹底する中で神々の名を消し、数字で“言い換えた”カレンダー

普段何気なく使っている「金曜日」「Friday」「vendredi」「sexta-feira」――

その一つ一つが、実は2000年以上にわたる人類の宗教と文化の歴史を背負っているのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次